全てを喰らう雪崩の口が、本の数メートルという所まで迫ってきた。
…瞬間、イブの身体は真っ黒な闇に覆われ、掴まれているリストの身体にも闇が移っていく。
………この、手足から体温という体温が一気に引いていく感覚…なんだか抜け殻になっていく様な虚無感………一生慣れない。
「はーい、息吸ってー」というムカつく程楽観的なイブの声をぼんやりと聞きながら、リストは何度目になるのか分からないこの恐怖体験に目をつむった。
例えるならば…冷水に全身が浸かった様な時とでも言っておこうか。冷たい冷たい底無し沼か湖の底に沈んでいく様な…。
吸い込まれる様な感覚が身体を襲うと共に、周りからは音という音の一切が…何も聞こえなくなる。
恐怖を覚えるより先に、そんな思考回路自体が無くなっていく。
何も無い。何処を見ても、何も無い。自分さえも、見当たらない。
誰かに見付けてもらわない限り、自分は無いまま。
“闇入り”とは末恐ろしい技だと、体験する度に思う。
“闇入り”は使い手が意識しない限り、余計なものまで消すことは無い。
落ち葉やら瓦礫やらが飛んできても取り込んでしまうことは有り得ない。
基本、無機物は受け入れないのだ。
…しかし、有機物…つまり、生命体になると話は別だ。
無機物と違って複雑な細胞を持つそれが飛び込んでくるというのは、薮から棒に等しく、使い手の集中を狂わせる。
それは勿論“闇入り”に長けているイブでも例外ではない。
………だから、その途端。
リストも自分も首尾よく闇に溶け入り、この冷風を避けれるだろうと確信した、その時。
予想外の事態に、イブの“闇入り”は少々…崩れた。
纏っていた闇に、吹雪や雪崩や瓦礫とは違う…何かが、飛び込んできたのだ。
“闇入り”真っ最中だったイブは不可抗力にも、その飛び入りしてきた何かをも取り込んでしまった。


