「……相手が狩人じゃないだけでもラッキーよね…もう、谷、無いもん…隠れる所、無いもん…」
森と針山の境にある巨大な谷なら、既に越えてしまった。大体、その谷からはい上がって来たのだ。この、荷物を抱えて…。
………時は、今日の昼間だった。
このお荷物が生まれたのは、あの嵐の第二波である冷風の襲撃と同時だった。
あの時の寒さと、溢れんばかりの奇妙な違和感は、数時間経った今でも鮮明に覚えている。
遥か頭上の、大きな谷の口。
二人の予想通り、嵐は最初の暴風では飽き足らず、調子をこいて第ニ波を吐き散らしてきた。
しかもそれは、最も恐れていた極寒に極寒を極めた巨大な冷風。
空中を駆け巡る青い風は見ているだけでも充分寒いのだが、それは断りも無しに襲い掛かってきた。
爆風に等しい威力も持ち合わせた冷風はその冷たさのみならず、何処からか巻き込んだらしい木々や大量の雪を伴って、物凄い勢いで谷底の二人に迫ってきた。
猛威を振るう巨大なその姿は、まるで雪崩だ。谷の頂上から底、側面を隙間無く覆い尽くした青みがかった白い壁が、呻きを上げながら二人を飲み込むべく突進してきた。
…この絶体絶命の窮地から逃れられる技、“闇溶け”の体勢に入るイブ。
空気中から寄せ集めた濃い闇を足元に纏わせながら、傍らに立つリストの腕を掴み、本の少しだけ引き寄せる。
「………“闇入り”って結構大変なのよねー………自分だけじゃなくて他の異物まで一緒に消すんだもん……」
「………異物…」
リストは一瞬顔をしかめたが、今はイブの力無しではどうにもならない。文句を言える立場ではないのだが………腹は、立つ。


