中に挟まれた人間は、何かと苦労する。
長老はそれが分かっているのかいないのか。
「………それと、だ。………王族暗殺を企む異端者共の事だが……かなりの数が潜んでいたらしいぞ。虫殺しの命でだいぶ潰したがな」
…つい先日長老が下した命令…『虫殺し』。その大規模な殺人命令は、この短期間で雪中に潜むバリアン兵士等の数をだいぶ減らした様だった。
デイファレトの各地からその報せが飛び込んでくるのだが、全て合わせればなかなかの数になる。
………多少、こちらにも犠牲が出ている様だが……それは致し方ない。
「……創造神アレスが、各国の王族に勅命を下されているようだが………バリアンはその命に従わず、我が国の王族を殺そうと躍起になっている。……神が決めた期日までにこの国に王が生まれなければ…災いが起こるらしいぞ。そしてその期日は………………もう、あと三日と迫っている……」
「………………何が言いたいのだ…」
何処から入手してきたのか知らないが、今回の騒動についての詳細を、聞いてもいないのにわざわざ説明する神官。
暗闇の奥から響き渡る長老の声は、何処か不機嫌だった。
「…ちょっと、な…」と呟く神官は浮かべていた薄ら笑いを引っ込め、暗い足元をじっと見下ろした。
闇に慣れてきた瞳はぼんやりとだが……やせ細った自分の足の曖昧な輪郭だけを映した。
それで、精一杯だった。
「―――…郷土の荒れ果てていく様を………我々は眺めているだけでいいのかと………少し、疑問に思うのだ」
崩壊する地を、木々を、空を、人を。
見ているだけ。
見届ける、だけ。
我々は、それで良いのか。


