……男はそれはそれはもう愉快な様子で、高めの笑い声をあげながら廊下の奥へと立ち去っていった。
…無性にカチンとくる高らかな声が木霊する。
マントを羽織った二人の男の内の一人が、見えなくなっていくその背中を無言で見送っていた。
………後ろで組んだ拳の爪が、ギリッと肌に食い込む。
「………」
「………相変わらず……な、御方だな……」
背後にいたもう一人の男が、溜め息混じりに呟いた。
「………全くだな…」
「…ウルガ、お前はこれからどうする?…俺と訓練の指揮をしても良いが……」
ウルガと呼ばれた男はその場でフードを取り外し、男の方に振り返った。
………日に照らされて現れたのは、赤褐色の肌を持つ二十代後半位の寡黙な男。
肩に付く位の乱れた黒髪に、獰猛な狼の様な厳かな光を宿す灰色の目。
振り返り様に、ざんばら髪と共に銀のピアスが小さく揺れた。
「………私は引き続き、上空からの監視を行う。………訓練の指揮は任せた………」
「………ああ」
ウルガはそれだけ言って、反対側の廊下へと歩を進めて行ってしまった。
均一に並んだ吹き抜けの窓から差し込む陽光が、長い廊下に明るい光の日溜まりを敷いていた。


