「―――…この文は、読んでもらえるのでしょうか?」
…のんびりとした足取りが、ピタリと止まった。
眉をひそめた神官の鋭い視線が、未だ跪ずくマナに向けられる。
「―――…長老に、読んで頂けるのでしょうか?」
「―――…それは長老の御意思次第。私に尋ねるのはお門違いというものだ、マナ。下がりなさい」
「神官様…」
「下がれ」
ややきつく言い放つと、少しの間を置いてマナは会釈し、静かに退室していった。
彼女の足音が完全に聞こえなくなると、神官は床に置かれたザイからの文をそのままに、奥へと歩んで行った。
仕切り代わりの布を捲り上げ、真っ暗闇が広がる奥の空間へと一歩一歩進んで行く。
ただでさえ視力の悪くなった目は、何処を見ても黒一色しか映さないが、慣れすぎたこの道程で躓くことはない。
何処もかしこも黒がこびりついた通路をある程度進んだ所で、神官はふと……足を止めた。
しわだらけの頬を指先で掻き、独り、肩を竦めた。
「―――……お聞きになっていたとは思いますが………ザイロングからの文だそうですよ……………………………長老」
「―――…捨て置け」
低い、低い………獣の唸りに似た声が、暗闇の奥から響き渡った。
空気を震わすその声は、冷たい風と共に神官の衰えた身体を撫で、通り過ぎて行く。
……誰もが震えおののくその声に、神官は………薄ら笑みを浮かべた。
「……その一点張り、か。………貴方に文など…とてもじゃないが、恐れ多くて出せぬもの。それを大胆不敵にもやったのだぞ?……少しは目を通してやっても良いだろうに……それともまだ…」


