………何をどうすれば良いのか分らなくなってしまった。
老王は顔をしかめたまま唇を噛み締め、何とも恐ろしい形相でローアンを睨む。
対するローアンはやはり笑顔で、玉座から動かない老王を見上げている。
……音という音を出し辛い、この静寂漂う奇妙な空間。
異なる王が向かい合っているだけでも……長きに渡る歴史の中で稀にみない出来事。
周りの兵士は一切口を開かず、痛みが引いたアレクセイを含む使者達も、黙りこくることによりこの緊張状態を持続させていた。
………どちらから、この空気を解くか。
誰もが手に汗握って耐えていた………矢先。
「―――お会い出来て光栄だ、フェンネル王」
と言って、同時に動き出した論外な人間が一人。
全員の視線は真っ先に、声の主に注がれた。
「………この様な、袋の鼠の状況でありながらその態度……女性でありながら、勇ましいことだ」
軽く拍手をしながら……………。
………爽やかな笑顔で、アイラが立ち上がった。
前に立っていたカイを後ろに追いやり、大勢の視線など気にせず、一人…ローアンの前に歩み出て来た。
「………アイラ…!………お前は下がって…」
「…バリアン王50世の第1王子………名を、アイラと申します」
アイラは老王の言葉など完全に無視して、勝手に名乗り出した。
…無言のローアンの前で立ち止まり、紳士らしい振る舞いで会釈をする。
………そして何故か、頭一つ分小さいローアンを見下ろしながら………ゆっくりと観察しだした。


