「―――…驚かせてしまった様で……申し訳御座いません。………私の誠名はローアン=ヴァルネーゼ。………お好きな呼び方でどうぞ……」

フェンネル王ことローアンは、深緑の長いマントを翻して再度会釈をした。

その傍らで、主人に鼻先を寄せて甘えるトゥラ。


「―――………っ…」

老王は横目でチラチラと二人の魔の者に視線を移した。

………ログとカイはローアンを見詰めたまま…やはり動かない。微動だにしない。

……彼女の言うとおり、魔の者は王という存在には手出しが出来ない様だ。

(―――……この……肝心なところで………………役立たずな連中じゃ……!)



………正面で微笑むこの小娘など……指一本動かすだけで、周りの兵士に串刺しの命を与えられる。……だが………………。


(…………この小娘………噂以上に…………………………出来る…)


……見た目は単なる、華奢で小柄な18の女。
だがしかし…………………漂わせる空気が、凡人と掛け離れたものを含んでいる。

それはまるで………兵士の、覇気。







「―――………顔色が優れませんね、バリアン王」



…我に返った老王はビクリと身震いし、平常心を保とうと玉座に座り直した。

「………もしかすると……先程の私に対する意見を言った事……気にしていらっしゃいますか?」

「………」

………老王は…しまった、と気まずそうに目を泳がせた。




………こんな所に王本人がいる筈も無い事前提で、散々悪態を吐いてしまった。

たかが女、だとか…愚かだとか…何だとか…………………しかし本人は使者に混じって一言一句聞き漏らさず、全部聞いていたのだ。