ピリピリとしていた空気や、充満していた殺気や、気怠い暑さや、焦りや、緊張感やらが………。
その瞬間、全てを無かった事にする嵐の様に、一変に吹き飛んだ。
悲鳴に近い奇声で散々怒鳴り散らしていた老王は、今ので思考回路が断たれたのか、目が点だ。
蛇に睨まれた蛙同然の老王。
全身の血の気がスウッと失せ、大量の脂汗が滲み出ている蛙を見上げるのは………静かに微笑む、小さな蛇。
………極めて強い毒を秘めた、小柄な蛇。
「―――…どうなされた?…バリアン王」
………明らかに、ここにいてはいけない…いない筈の高貴なる人間は、凛とした上品な声を発した。
その金髪を揺らして小首を傾げる様は、見目麗しい一人の女。
女は女でも、きっとこの世で一番高い所に立つことを許された女。
………第3大国フェンネルをおさめる、女王陛下。
老王は息をのみ、あちこちに視線を泳がせた。
…こちらを見上げるその微笑が、恐ろしくてならなかった。
「―――…陛下!………あれ程…顔を表に出してはならぬと…」
背後に控える使者達が慌てた様子で言った。……老人の方はまだ床で悶えている。
「………ロ……ローアン様………いえ、陛下………貴女様が話を直々にせずとも………」
「………気が変わった。お前達は下がっていろ。………………間接的に、ではなく………………直接話がしたい」
そう言って再度重ねてきたスカイブルーの瞳は……笑っていた。
(………)
…口ごもる老王。
………何か…悪寒の様なものが背筋に走った。