亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



………深いフードから漏れたのはやや苛立ちを含んだ低い声。
しかし………何処か甲高い様に聞こえるそれは………女の声の様で…。




その使者はトゥラをそっと撫で、アレクセイを放置したまま………玉座にゆっくりと歩み寄った。


ビクリと我に返った老王は、来るな来るなととにかく杖を目茶苦茶に振り回す。

「―――…ログ!カイ!………な、何をボサッとしておる!!……何とかせぬか!………聞いておるのか!!」

二人の魔の者に老王自らの命令が飛び交うものの………二人はガクガクと震えたまま、動かない。滝の様な汗が刺青だらけの肌に滲んでいた。







「―――バリアン王、それは無理な命令です…」










………謁見の間に、凛とした声が響き渡った。







徐々に近付いて来る使者は、至近距離に構えられた槍や剣を完全無視し、尚且つ距離を詰めて来る。



「………魔の者とは、本来は創造神アレスの御使い。………アレスの書にあるように……………………絶対的主従という使命に縛られた彼等は…………………………………………王、という存在には、手出しが出来ないのです」













深緑のフードに、手が掛けられた。


















「―――ああ、申し遅れました………」
















………サッと、フードが取り払われ………………その姿が露になった。
老王の顔が、引きつった。




―――その使者は上品な笑顔で恭しく、しかし軽く会釈し………セミロングの金髪を後ろに払った。



























「―――私は、フェンネル王54世…浅はかな王に御座います。…御機嫌うるわしゅう、バリアン王………」