「―――……そうか。……本当に来たのか。………今、どの辺りかね?」
顎に手を添えて、本の少しだけ首を傾げた。
後ろに結った長い黒髪が揺れる。
……まだ20代半ば位の長身の若い男。
しかし、銀縁眼鏡の奥でニヤリと笑う切れ長の目は、年相応の貫禄を秘めてはいなかった。
………問い掛けてくるにこやかな笑みは、何とも意地の悪い鋭さを持っている。
「………はっ。まだ砂漠の中頃で……正午辺りにこちらに着くかと……」
「………そうかね。………では、早速報告しなければならないね。ああ、君達…ご苦労だったね。下がってよいよ」
男は細い指で眼鏡の縁をずらし、楽しそうにまたニヤリと微笑んだ。
マントを羽織った二人の男が礼をし、踵を返した途端……この眼鏡の男は、軽快な動きでクルリと振り返り、「ああ、君達」と呼び止めてきた。
「………用意周到という言葉は好きだね。それはともかく、君達……昨夜から続いている訓練だけれど、このまま休憩無しで続行してくれたまえ。……武装は、そのままでね」
「………はぁ。…しかし、一体どの様な用件で…」
…兵士達の訓練は、日没から朝までとなっている。
この焼け付く様な殺人的な気温の高さだ。
日が上っている内での、激しい体力の消耗を起こす訓練など、言語道断だ。
滅多な事が無い限り、朝からきつい訓練などしない。
「………そりゃあ、だって、君………」
……男はニヤリと、口元の笑みを深めた。
「その正午辺りに、出番が来るかもしれないじゃないか。日々の鍛練の成果が発揮されると良いものだねぇ!アッハッハッハッ!!」


