「―――…レト…!!」
氷と吹雪の渦に向かって一直線に走っていく、小さな影。
危険である事は目に見えて分かるというのに……それでも、王子を案じて向かっていく見慣れた息子の姿。
未だ対峙するバリアン兵士の剣を弾き返し、ザイは叫んだ。
その声はこの轟音に揉み消され、届かなかったのか、レトが振り返ることは無かった。
………行ってはいけない。
危険だ。
「………邪魔を…するな……!」
普段無表情なザイだが、この時ばかりはこの男の仏頂面も崩れていた。
正面で剣を構える兵士を、忌々しそうに睨み付けるザイ。
………落ち着いてなど…いられるか…。
…対する兵士は、白の魔術を暴発し続けるユノの方を一瞥し、あろう事か………構えていた剣を下ろした。
怪訝な表情で見てくるザイに、兵士は鼻で笑った。
「………言われずとも……引き際だという事くらい分かっている。……………こんな所で…無駄死にはしたくないからな………」
………そろそろ潮時、だろう。
………前戯は、ここまでだ。
―――…瞬間。
兵士はザイに背を向け、地を蹴った。
白いマントを翻し、兵士は荒れ狂う吹雪の中に消えていく。
その突飛な行動に、目を見開いたまま立ち尽くすザイ。
何故の敵前逃亡かは不明だが………今、遮る敵は前にいない。
一端剣を構え直し、レトを追いかけるべくザイは轟音の根源に目を向けた。
………その直後。
「―――………ザイ…さんっ………」
……苦しげで、息も絶え絶えな掠れ声が背中に当たった。


