赤い瞳から幾筋もの涙が零れ、頬を伝っていく。
綺麗な涙の滴は地に落ちることなく、彼の周りの吹雪にのまれていった。
「………来ないでくれ…!!………僕を殺さないで…!!………………僕の敵は皆………死んでしまえ……死んでしまえ…死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ……………………………死んでよ…!!」
ユノの叫びに呼応して、吹雪はより強く、肥大していく。
氷柱の他に、薄い氷の壁が地中から何枚も何枚も生えていく。
………何重もある弧を描いた壁が、彼を覆う様に…。
透明な卵に似た、巨大なオブジェが形成されていく。
―――…僕の周りは敵ばかり。
敵、ばかり。
僕を、傷つけないで。
僕を、殺さないで。
来るな。
来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな。
来るな!!
「―――……ユノっ…!!」
全てを拒もうとする彼の心をそのまま形にした様な氷の砦に、レトは、走った。
巻き起こる吹雪の突風に、軽い身体はいとも容易くさらわれてしまい、ポーン…と曇り空の下を少しの間浮かんでいたかと思えば………。
何処かの樹々に跳ね返り、厚く積もった雪の上に落下し、小刻みにバウンドして………ようやく止まった。
身体を震わせて被った白い雪を振り払い、ここは何処だろう…と辺りをキョロキョロ見回して、首を傾げた。
「………チチチ…?」
特に意味も無くお空に向かって鳴いてみたが……何か起こる訳でも無く、虚しい時が刻まれていくばかり。
アルバスは呑気にやや音痴な鼻歌を口ずさむ。


