亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


青白い氷の波が走った場所には、次々と荒削りな氷の柱が何本も天に向かって連なっていく。

転がる屍は一瞬で氷の塊と化し、美しい風景の一部となった。
一気に冷えた空気の中、漂う蒸気はダイヤモンドダストの様に細かな光を放ち、煌めきながら消え失せていく。
獲物を捜す獣の様に大地をはい回る凄まじい冷気は、地面だけでは飽き足らず、周囲の樹々にまで浸蝕していった。
……一瞬で更に凍て付いた大木からは、幹や枝からなどお構いなしに、鋭利に尖った氷の柱が生えていく。
樹々は既に樹々の原型を止どめてはおらず、見渡す限りにあるのは青白い針山の群集だった。








………本の一瞬だった。本の一瞬でその大地は、神秘的な光景が広がる別世界………悪く言えば、獰猛な氷の巣穴へと、変貌した。












異変に気付き、咄嗟に上空へ高く跳躍したレト達。

足元は積雪に塗れた地面から厚い氷の地へと一気に変化した。



………もしあの冷気の波を避けきれていなかったら、どうなっていただろうか。

考えたくもない最悪の結末が、生々しい映像となって頭を過ぎる。




…氷の別世界に下り立ったレトは、この世界を作り上げた源であるユノに振り返った。








凍て付いた世界の真ん中に、彼は佇んでいた。

空が零す雪の全てが、彼を中心にグルグルと螺旋を描きながら降りしきり、真っ白なベールが彼を包んでいる。

………白い吹雪きの竜巻の中で、真っ赤な瞳を光らせながら………顔を覆う彼の姿が見えた。






「………どうして邪魔するんだ………皆……皆……僕の邪魔ばかりして…!!………僕は……僕は………王になるしかないのに…!!」