目と鼻の先の空間に、取って張り付けた様にそこにある、浮かんだままの雪の群れ。
白い吹雪の時間だけが、止まっている。
一人のバリアン兵士と対峙していたザイも、静止する吹雪の中で辺りに目を凝らした。
………静かだ。
………風の音も、刃の鈍い音も、足音も、何も聞こえない。
辺りは静か。
ここは、静か。
不気味なくらい、静かで。
「―――………ユノ…っ…?」
彼の気配を、感じた。この限られた狭い世界の中で。
彼を。
ユノの気配がした方へと振り向けば………薄くなった蒸気に塗れる視線の先には、見慣れた彼の姿。
………そこにいるのは……以前、洞穴で見た時と同じ、彼の…。
赤い瞳の。
見慣れた、彼の。
「―――………僕のっ………邪魔をっ………………………っ…………………するんだあああああぁぁぁ―!!」
―――パキッ。
氷がはぜる、甲高い音色。
一際大きなその音色が、ユノの内から響き渡った直後。
大地は。
塔のごとき氷柱が群れ成す、氷の海と、なった。
物凄い速さで、地面を這う様に迫り来る、氷の波。
まるでそれは生き物の様に、縦横無尽に駆け巡る。


