地面を這う氷は厚みと範囲を増し、靴諸共凍り付きそうになっていたのを、ハイネは慌てて迫り来る冷気から退いた。
………“白の魔術”が如何なるものか。どういったものなのかは分からないが………とにかく、このままではこちらがやられてしまう気がするのは、気のせいではないだろう。
(………ここは一端………退くしかないな…)
…嫌な予感がする。………長は今何処にいるのだろうか。
目の前の標的を斬らずに逃げるのはどうかとも思うが、本能の警鐘に従うしかない。
ハイネは小さく舌打ちをし、剣を握ったままその場で踵を返そうとした。
「―――…どうして…!」
―――その途端。
あんなに髪を撫で回し。
肌を刺し。
体温を奪い。
視界を曇らせ。
自由気儘に、舞い続けていた………猛吹雪が。
流れる蒸気や、空気、数人の吐息、交じり合う刃、俊敏に動き回る戦士達を差し置いて。
………その舞いを、ピタリと………止めた。
ピタリ、と。
その姿だけを残して。
音も無く。
「………」
「………っ……何…?」
対峙していたレトとドールは、この不可思議な現象に動きを止めた。
………目の前にある雪が…氷の粒が全て………静止している。
風は吹いているのに。蒸気も濛々と漂っているのに。
雪、だけが……時を刻んでいない。


