亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



「…どうして…!」

少年の赤い瞳が揺らめいた途端、未だ蒸気を放つ地面が彼を中心に凍て付き始めた。

ピシッ……ピシッ……と、半透明の薄い氷は徐々に広がり、あっという間にハイネの足元にまで迫ってきた。

………周囲に漂っていた蒸気は無くなり、ユノとハイネが佇む場所の気温だけが下がっていく。

絶え間ない猛吹雪は依然として降り続いていたが、その白い結晶のほとんどは全て、ユノだけを避けて吹いていた。


………青く長いユノの髪が揺らぐ。

次第に輝きを増していく彼の瞳は、これ以上無い程真っ赤に染まり、怪しい光を宿す。












(………ヤバいっ…)




…今現在、目の前で起こっている予想だにしていなかった事態に、ハイネは苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべ、冷や汗を流した。




…不可思議な現象。

空気は一気に冷え、地面は凍て付き、吹雪は更に酷くなり………巨大な威圧感が、全身を襲う。

………目の前に佇む少年は、さっきとはまるで違う。

真っ赤に光る彼の瞳は、敵意だとか、殺意だとか、そんな生易しいものじゃなくて。

………人間なんて存在を超越したものを、ひしひしと、感じた。


魔術を囓った事が無いどころか、魔力の欠片も持ち合わせていない素人同然の自分は、他人の魔力の力量など正確には測れない。

だが………この少年の小さな身体から、今にも溢れ出しそうな魔力は、素人目でも、分かる。











………デカい。……馬鹿デカい。



………大き、過ぎる。



………強力過ぎる。









(………これが…“白の魔術”…………王だけが許される、神様からの授かりものってやつか……)