………佇む少年の背中から、震える声が聞こえてきた。
―――…どうして。
…その声は、恐怖に震えている訳ではなかった。
………怒りに、震えている。
もう何歩か近寄って、剣を振れば……全ては終わる。
視界の真ん中に映るこの幼い少年の首を刎ねれば、全て事は片付く。
早いところ、終わらせてしまいたい。
そう思うのは山々だったが。
ふと、無意識に………ハイネは歩みを止めた。
剣を握る手に力を込め………少年の背中を、ただじっと見詰めた。
(………何だ…?)
………これ以上、近寄ってはならない。
そんな言葉を、本能は叫んでいた。
何故だか分からない。子供相手に……何をビビっているのだ。
しかし、いくら己を叱咤しようとも、身体は前に動かない。
むしろ両足は後ろへ下がろうとしていた。
………訳が分からない。
ただこの子供を斬ればいい。
殺せばいい。
殺してしまえばそれで…。
「……どうして…」
妙に落ち着き払った、か細い、静かな声。
それと同時に、少年はゆっくりと………こちらを振り返った。
透き通る様な、青い髪。
蒸気に撫でられほんのりと湿ったそれはサラサラと彼の背中を流れ。
人形の如き完璧なまでの端整な顔を、覗かせた。
大きく見開かれた、円らな瞳。
自分の姿がはっきりと、あの美しい宝石に映し出されている。
真っ赤に染まった、瞳に。


