亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

混乱し、わななく口で喚く老王。


訳の分からない恐怖に苛まれた老王の目は、自然と…前に佇む一人の使者に焦点を合わせた。


動揺を隠しきれないまま、老王は杖を使者に向けた。

「―――き、貴様……!!……何をしおった!!………妙な真似をしおって!!」





ギャーギャーと悲鳴にも似た奇声を上げる。………そんな騒音の中、問題の使者がマントからスッと…腕を出した。


その手には、剣も何も握られていなかったが、周囲の兵士達は反射的に身構えた。


…華奢な腕はそのままゆっくりと肩線まで上がり………そして。




























―――…真後ろのアレクセイの胸辺りに、強烈な肘打ちを食らわした。



「―――ッゴォッ…ホ……!?」

呻き声を漏らし、老紳士は大理石の床にどうと倒れた。






















………………。






















本格的によく分からなくなってきた現状に、使者達以外の、その場にいた誰もが何度も瞬きを繰り返した。

…兵士達は槍を構えたまま……ただただ無言で、床の上で仕切りに胸を押さえて悶え苦しむ老人を眺める。

老王もいつの間にか喚き声を引っ込め、呆気にとられていた。
ケインツェルは哀れな老紳士と暴力を働いた使者を交互に見詰めるばかり。
二人の王子は顔をしかめていた。












………前線から離脱してきた重傷兵士の様にヨロヨロと立ち上がるアレクセイ。

ゴホゴホと咳込みながら、掠れた声を漏らした。





「……っ…まさか………みぞおちとは………………ゴホッ………………ふ…………不覚……………」

「………いつもストレートやアッパーばかりと思うな、アレクセイ」