「………この僕を殺して……何になるっていうんだ………。………君等の考えている事が分からないね……」
恐怖を紛らわせようと、ユノは言葉を紡いだ。いつでも逃げられる様に走る準備だけはしておく。
「………さぁね。老いぼれ陛下の事だ。……どうせ…滅ぼした国が復活するのが癪に障るだとか………そんなところだろ…。………少年、悪いが………王様になる夢は諦めてくれ…」
……スラリと、ハイネは腰の剣を抜いた。
銀色の鈍い光沢が、真っ白な蒸気の中でぼんやりと浮かび上がる。…唇を噛み締め、ユノはハイネを睨んだ。
「………そんな勝手な理由で………諦める訳にはいかないんだよ…。………僕は………王にならないといけないんだ………それしか…僕には道が、無いのだから……!」
言うや否や、ユノは踵を返してハイネに背を向けた。
滑りやすい霙混じりの地面を駆け、逃亡をはかる。
「…逃がすかよ!」
…でなければドールに会わす顔が無い。
小さくなっていく背中に向かって、ハイネはナイフを投げ付けた。
あまり殺傷能力は無いが、急所を当てれば凶器となる投げナイフ。一撃で仕留めるつもりだったハイネはナイフは、この蒸気に塗れた視界のためか、少しだけ的が外れてしまった。
鋭利なナイフは空を切り………走るユノの左肩を、掠めた。
「………っ…!?」
………皮膚が裂かれる鋭い痛み。
ナイフの刃が切り裂いた肌はさほど深くはなかった。
皮の二、三枚を切っただけで、出血も大したことは無かったが………ユノを足止めするには充分な攻撃だった。
ズシャッ…と前のめりに倒れたユノは、痛みに耐えながら、じんわりと熱を帯びる切られた左肩を押さえた。


