亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



細身で華奢な手足だが、身体付きからして多分男だろう。先程交わした一瞬の会話では、声変わりはまだしていなかった。



………何よこいつ。

ガキのくせに…あたしより背が低いくせに……小柄な…くせに………なんか色白で…男のくせに可愛い声しちゃって………ああっ…!………余計な事で苛々してきたじゃないの!!





………別の意味で敵意をむき出しにするドール。

自分はちゃんとした乙女の筈なのに………相手のガキの方より逞しく思えてきた。この鎚のせいなのか。そうなのか。



………そんなドールの複雑な心境など露知らず、レトはその場から大きく後退し、彼女にすぐさま弓を構えた。

一瞬で現れた鋭い氷の矢を番え、重い弦を引き分け、少女に的を定めて離した。



青みがかった光線の如き矢は辺りの靄を払い除け、ドール目掛けて突き進む。


それと同時に、ドールは笑みを浮かべ、鎚を真横一文字に大きく振った。

「弓っていうのは、ワンパターンなのよ!」


ドールの声と共に、振り回された鎚は弧を描いて………真正面の何も無い空間を、叩いた。

鎚を中心に、見えない空気の振動が波紋の様に広がり……飛来してきたレトの矢は、ドールの目の前に辿り着く事なく、強力な空気圧によっていとも容易く弾かれた。


弾き返された矢は、細かな氷の結晶へと粉砕した。

「………」


………今、何が起きたのか………全く分からない。
………とにかく、この少女に対して弓は相性が悪い、という事は分かった。




彼女の鎚による空気の振動は凄まじいもので、辺りの靄が一変に吹き飛んでしまった。

………あれを、生身の人間が直接食らえばどうなるのだろう。