目を離したザイに、敵の一人がナイフを投げ付け、同時に切りかかってきた。
ヒュンッ…とこちらに真っ直ぐ飛来するナイフ。
そのキラリと光る鋭利な切っ先を、ザイはまるで見ようともせずに腕を振り、薄い鉄板で出来た手甲で弾き返した。
行き場を失ったナイフは弧を描き、真後ろに飛んで持ち主の頬を掠めていった。
…咄嗟に顔を逸らしてナイフを避けた兵士だったが、前に向き直った彼の目の前には、いつの間に間合いを詰めてきたのか………剣を振り翳すザイの姿があった。
………大きく見開いた兵士の目が映したのは、そこまでだった。
ザイの鋭い一閃によって胴体から引き離された兵士の首は、何が起きたのか分からないとでも言うかの様に驚愕に満ちた表情を浮かべたまま………蒸気に塗れる足元に転がった。
首から下だけの兵士はガクガクと痙攣し、その場で崩れる様に倒れた。…真っ赤な鮮血が、霙混じりの積雪に絡んでいった。
「―――……行けっ!!」
血肉が付着した剣を構え直し、ザイは叫んだ。
……あまりの恐ろしさに立ちすくんでいたサリッサは、無惨な屍と大きなザイの背中を交互に見つめ、意を決した様に顔を上げた。
「………お願い…しますっ…!」
ユノを背負う両腕に力を込め、恐怖に涙を浮かべてサリッサは踵を返し、走った。
………やけに滑る地面を力強く踏み締め、サリッサは振り返る事無く蒸気の中を駆け抜ける。
………すぐに、自分達以外、誰一人の影も見えなくなった。
ユノは振り返り、声を上げる。
「………やだ…嫌だ……!………お母様、下ろして!!………レトが………!!」


