返り血の一滴も付いていない大きな剣を一振りし、ザイは自分を囲む敵に向かって再び構えた。
包囲しているのはあと二人。
濃い白色の蒸気と吹雪で視界はとても悪いが、気配は手にとる様に分かる。
向けられる殺意はどちらも鋭く、武術を囓った程度の輩が出せるものでは無かった。
……人を殺すことに長けている、残忍な……しかし、何処か格式張った…。
(………これが……兵士というものか……)
デイファレトの狩人の様に神にのみ忠誠を誓う戦士ではなく、同じ人間の王族という存在に仕える『兵士』、『騎士』といった異端の戦士。
…腕の立つ者達の集い。
多くの人間の力を、一寸の乱れなどなく発揮出来る。……だが。
(………それ故に、集団でなければ何も出来ぬ木偶ばかり、か………)
フードの下で嘲笑を浮かべ、ザイは剣の柄を両手で握り締めた。
「………サリッサ殿…」
ザイの背後で、ユノを背負ったまま震えていたサリッサ。
背負われているユノは相変わらず真っ青な顔をフードから覗かせ、苦しげに白い靄の世界をキョロキョロと見回していた。
「………レトは…?……ねぇ………レトは……!?」
さっきまですぐ側にいたのに。
見渡す限りの蒸気の中、レトの姿は影も形も、何処にも無い。
「………サリッサ殿、王子をつれてしばし…離れられよ。………とにかく、この厄介な戦場から抜け出さねば話にならない………ここから真っ直ぐ…後ろに走れ。………後から合流する…」
ちらりと一瞥してきた、ザイの凄まじい殺気に塗れた眼光に身震いしながらも、サリッサは黙って頷いた。


