華奢な腕で操られた二メートル強の鎚が、右へ、左へ………その重さをものともしない速度で振り回される。
当たればとんでもなく痛いであろうその一撃一撃を、後退しながら避けるレト。
ゴツゴツとした鉄の塊が目と鼻の先を掠める度に、突風の如き風圧が巻き起こる。
一端、大きく飛び退き、少女の鎚の攻撃が当たらない様に広く間合いをとった。
遠ざかるレトを見詰め、フンッ…と少女は鼻で笑い、巨大な鎚を地に突いた。
地響きに似た小さな揺れが起こる。
足元から立ち上ぼる蒸気は次第に治まり、周囲の景色も朧気だが見える様になってきた。
急ぎユノ達を捜したいところだが……対峙しているこの少女が気にかかる。
………目を離せば、油断すれば………危険だ。
戦闘に長けたレトの勘が、そう言って警鐘を鳴らしていた。
「………十八番の弓は使わないの?狩人の坊や。………あたしを睨んでるだけじゃ、王子様は守れないわよ…」
「………」
レトは身構えたまま、マントの内に手を入れ………無言で、弓を取り出した。
たった、一閃。
目にも止まらぬ速さの、空を切り裂くだけの一閃。
それが目と鼻の先を横切っていったことに一瞬遅れて気付いた時には、数人の仲間が視界の隅に吹き飛ばされていた。
刃は確かに空を斬ったのに、地面に転がる同胞は何故か血達磨と化していた。
………何が起きたのか、分からなかった。
仲間の呻き声を聞きながら奥歯を噛み締め、バリアン兵士は前に佇む不気味な程冷静沈着な人物に向き直った。
「………貴様っ…!」
「………」


