………予想外にも…。
………背後で黙って控えていた使者達の中から、一人だけ。
……カツカツとブーツを鳴らして前に出て来た。
そしてそのまま、トゥラと二人の魔の者の間に回り込んだ。
……今にも魔術が発動して巻き込まれるやもしれない、という危険を無視し、トゥラを庇う様に突然出て来たこの使者。
…アレクセイは驚愕の表情を浮かべ、その背中を唖然と見詰めていた。
―――その直後。
………フッと………………魔方陣が、消えた。
魔力によりグルグルと渦巻いていた空気も止み、トゥラの足元からは一瞬で光が消え………杖の先の宝珠も、輝きを失った。
………魔術が、中断された…?
………有り得ない…!
「―――な………何じゃ!?………何が起こった!!……ログ、カイ!!………何故術を止めた!?………さっさと殺さぬか!!」
…老王と同様、現状が把握仕切れないのは二人の王子や側近も同じで……アイラとリイザは自分の腹心を怪訝な表情で窺った。
「―――カイ、どうした…?」
正面で背を向けて立つ腹心のカイを、アイラは覗き見た。
………元々真っ白な肌のカイの表情は………青白く、何故か酷く辛そうで………強張っていた。
それはログも同じの様で………二人揃って固まったまま、小刻みに震え、辛そうに呼吸を繰り返していた。
………美しい緑の瞳は、天敵を前にした小動物の様に、怯えきっている。
………たった使者一人が…………前に出て来た、だけで。
「………何が起こったのじゃ!!」


