ジリジリと押してくる相手の男をキッ…と睨み付け、レトは突然剣を横に傾け、力が込められた相手の刃を一気に逸らした。
押し潰す事しか考えていなかったのか、レトの素早い動きに追いつけず、男は一瞬前のめりに一歩踏み出した。
「………退いてっ…!」
その一瞬の、隙。
レトは剣を握り直し、男の手に一閃を放った。
…深くはないが、浅くもない斬り付け。僅かだが、肉を断つ感触があった。……指の二、三本は切れたかもしれない。
男の低い呻き声を耳にしながら、レトはその場で後ろにくるりと回転し、思い切り男の顎を蹴り上げた。
剣を落とし、手の流血もそのままに後ろに倒れていく男。
大柄な身体が靄の向こうに消えていくのを見届け、レトはすぐさま駆け出した。
…音のした方向に、足を早める。
自分のとは異なる足音があちこちから聞こえてくるが、妙に頭に響く頭上の赤い鳥の雄叫びによって、音の正確な位置がよく掴めない。
先程の男の様に、何処から刃が飛んでくるか。
「………ユノっ…」
何人潜んでいたのか分からないが、敵の標的は言わずもがな、彼に違いない。
敵の多くは彼を見つけ次第、一気に攻めかかるだろう。
…そうなる前に。
「………もうっ…」
握った剣を横薙ぎに何度も振り、蒸気を払った。
少しでも視界が良くなればと思うが、蒸気はなかなか反抗的で意のままに晴れてくれない。
やはり走るしかない、とレトは諦め、剣を構え直した。
―――その直後。
目線の高さに構えた己の銀に輝く剣に。
………こちらに向かって靄の向こうから突き進んで来る人影が映った。


