亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

ちっとも詫びているとは思えない様な、棒読みの口調で言ってアレクセイは笑顔でトゥラを撫でた。

…当のトゥラはまだ老王を睨んでいる。……主人を散々けなされてよっぽど憤慨しているのか、今にもその喉元に飛び掛かりそうな勢いだ。



……一瞬で再び臆病な老人と化した老王は、行動範囲が限られた玉座の上で背も垂れや縁にしがみつき、トゥラを指差してわななく声で喚き散らした。




「―――ひっ……!?……こ…この狂犬め!!何じゃその態度は!!魔獣だかライマンだか何だか知らんが、犬の分際でわしに………!…………ひいぃっ!?」


大理石の床を爪で削り、呻き声を漏らして怒りに身を震わせるトゥラの身体が、黒煙の様な……靄の様なものを纏い始めた。


………ジワリジワリと、不可思議な黒煙はトゥラの四肢に纏わりつき………その身体を消していく。

「―――ああ、トゥラは闇属性の魔獣で御座いまして……闇に溶けて移動する能力を持っているのです。………ちなみにこれは狩りに入る体勢ですな」

冗談では許されない様な事を、アレクセイは我関せずという顔でサラリと言い放った。

………老王はまた奇声を上げた。



「………このっ……生意気な………!!………その犬から仕留めよ!……ログ、カイ…前に出よ!」

額の冷や汗を拭い、老王は玉座の両端に控えていた二人の魔の者を呼んだ。

言われるがまま、カイは主人のアイラに軽く会釈して前に出た。
ログもビクリと反応し、一足遅れてリイザの前におずおずと出て来た。








………フェンネルにはもう一人もいない、異質な種族…魔の者。

それが二人も出て来た。

………戦闘能力は未知数。