以前“闇入り”を受けたリストはあの後、異様な程の体温低下に苦しみ、しばらくは寒い寒い寒いぞおい…と連呼していた。
どうやらよっぽど辛かったらしい。地味に。
………その、正直な話もう二度と体験したくない“闇入り”だが、谷に突っ込むのならば免れない。
狩人との追い掛けっこは続けたくない。しかし谷に飛び下りたくない。
………リストの胸中で様々な葛藤が繰り広げられていたその時、いつの間にかすぐ側に近寄って来ていたイブに襟首を強引に掴まれた。
「ぐず、ぐず、しなーい!ほらっ!谷!一気に走り抜けて谷底目掛けて飛び下りるから!!“闇入り”するから深呼吸していてよ―!」
「ちょっ……待て!!こ、心の準備が……!」
ああ…やっぱり谷底ダイブに決定なのか。“闇入り”でまた地味に身体を冷やさねばならないのか。俺の無駄な葛藤はやはり無駄だったのか。
俺の意思は、完全無視か。
サーッと青ざめていくリストなど露知らず、もしくは分かっていながら無視で、イブはリストを引っ張って木々から木々へと物凄い速さで跳び移って行った。
狩人達は上空を見上げながら二人を追跡するものの、急に逃げ足を加速したイブの速さにはさすがについて行けず、徐々に引き離されていった。
…そして、巨大な谷…デイファレトの大地を引き裂いているかの様な、この国土で一番深く、幅の広い、落ちた者はどうやっても這い上がれないと恐れられている谷沿いまで辿り着くや否や。
「あ゛ああああああああああぁぁぁ―――!?」
二つの標的は何の躊躇いも無く、地獄の割れ目へ消えた。
叫びと共に。


