亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



ああ、抜いてしまう。



彼と老王の間にはやはり………鋭利な刃が浮かぶのだ。


















誰もが、そう思った。




















―――…その時だった。
























………現れたのは鋭い刃ではなく………。














………漆黒の身体を持つ、鋭い………獣の目だった。

























突如現れたそれに、周りにいた兵士の殆どが息をのむ。




……側近の銀縁眼鏡は笑みを深くし、アイラは好奇心に満ちた目で見詰め、リイザはやはり無表情で、老王は………………驚きのあまり、腰を抜かして再び玉座に身体を預けていた。




……目の前に割って出て来たその姿を見下ろして…アレクセイは顔をしかめた。





「…………トゥラ…………出てきては駄目と言ったでしょう……?」











突然現れたのは、全長約2メートル大位ある獣。

黒豹によく似た美しい漆黒の体毛を持つ獣は、鋭い牙と爪をわざと覗かせて………玉座の老王を睨み付けて唸っている。



突然こんな獣が現れた事に驚いたが…。


「………じ…地面から………犬が………!!」

その現れ方にも驚いた様だった。

何しろこの黒い獣はいきなり何の前触れも無く、アレクセイの足元からズルリと出てきたのだから。

「………魔獣ライマン、名をトゥラといいます………我が王の良き相棒とでも申しましょうか………どうしてもついて来たがった故、同伴させました次第で…………ああ、驚かせて申し訳ありませんな…」