亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~



凍て付いた樹々の群衆の中。

太い幹に背中を預け、何かから隠れる様に縮こまっていた。


「………………そんな状況下で、冷静に地図見るあんたの神経を疑うわ……」





………そう、二人は隠れていた。

彼等二人の研ぎ澄まされた聴覚が捉えるのは、風の音と、互いの異なる呼吸音と、地図の端がはためく音と。








………寄り掛かった大木一本を隔てた後ろ側で響き渡る、鋭い矢羽音と悲鳴。

ヒュンッ…と空を裂く様なか細い音が聞こえた直後、「うっ」とか「がっ…」という呻き声が必ず続く。
同時に、積雪に重い何かが倒れる音。

………現在地の確認をする二人のすぐ後ろでは、猛吹雪に混じって激しい戦闘が繰り広げられていた。




イブとリストはただ単に、この場に居合わせてしまっただけだった。
普通の喧嘩や騒動に居合わせるならまだしも、今ここで起こっている殺し合いは半端では無い。
何とも運の悪い事に………片方は潜伏しているバリアン兵士達。そしてその彼等の相手をしているのは………狩人。

………慌てて隠れたため、きちんと確認はしていないが、さっきから頭上を通り過ぎたり樹々を抉っていく氷の矢からして、狩人であることは間違いないだろう。しかも一人ではないらしい。




………バリアン兵士も並外れた訓練を受け、戦闘には長けている筈ではあろうが、そんな彼等でも、数人の狩人相手では全く刃が立たない様だ。
剣を抜く前に皆、放たれた一本の矢でことごとく倒れていく。


………狙われた訳ではないと思うが、何処からか飛んできた矢が、イブの前髪を掠り、広げた地図の端に突き刺さった。


………しかし二人は微動だにせず、地図を睨み付ける。