………本の一瞬、瞬きをする間位の短時間で、この老人は天に向かって手を合わせた様に見えたが、何でもない様な顔でピシッと立っている。
「………何もしてくれないのかい…?………良いんだよ……抵抗しても。………ああ………喧嘩を……戦争を仕掛ける側にはなりたくないのかな?……………別に良いよ……。……………………………………こっちから仕掛けてやろうか…?」
「―――っ……アイラ!!」
おろおろとしながらただただ見守っていたが、とうとう耐え兼ねた老王。
玉座の縁を掴み、息子に向かって声を荒げた。
「………勝手な真似をするでない!!………今何をしているのか分かっているのか!…………馬鹿な事を…!」
「そんな馬鹿な事が、父上もお好きでしょう?………国というものは奪い合うもの………父上の教訓ですぞ。…………どうせこの異端者らも、国交などと言いながらよからぬ事を企んでいるに違いないのですから…」
至極楽しそうに言うアイラ。
リイザは無言だが、実に楽しそうだ。
………異端者は殺すべきだ。
息子達と同じ考えを持っていた老王は、グッと口ごもり………何も言わなくなった。
…さっきまで忙しなく泳いでいたのに………次の瞬間、敵意を露にした窪んだ瞳が、アレクセイに向けられた。
………隣国の力に怯えていた老王は、避ける方向ではなく………壊すという方向に、考えを改めた様だ。
………今この謁見の間で、友好的な人間は…………一人も、いない。
「………呆れますな…」
頬を掻きながら、アレクセイは溜め息混じりにぼやいた。


