「―――…………………猛獣の群を君達にけしかけたのが我が国だと…バリアン王だと言ったらどうする…?」
青年の低い含み笑いの声が木霊し…………その場の空気が、凍り付いた。
アイラに向かって、血の気の無い真っ青な顔が、玉座から荒げた声を振り掛けた。
「………アイラ!?………な……なななな………何を言って…………!!」
「国交なんか望んじゃいない、異端者の分際で我が国の領土を歩くなんて…おこがましい……」
「……運が無かっただけ。不幸な事故ということにして…………さっさと殺してしまおう…」
無言だったリイザまでもが、アイラと同様に貼り付けた笑みを浮かべて呟いた。
……意地の悪い二人の鋭利な瞳が、笑っている。……心底、楽しそうに。
アイラはゆっくりと豪華な座席から腰を上げ、肩を震わせて笑う。数メートル前の低い位置に立つ、無表情のアレクセイを見下ろして………涼しげな笑みの、仮面を被った。
「………だったらどうするんだい…?………何をしてくれる…?………………………………生きて返すつもりなんかさらさら無いって言ったら……………………どうする…?」
―――アイラは組んでいた腕を解き………その細い指を、パチンと小気味好く、鳴らした。
―――…マントを一斉に翻す音。
―――…一斉に取り出されたフック型の短剣と槍。
―――…一斉に一歩踏み出す靴音。
アイラが合図した途端、使者一行を囲む兵士の群が……殺気を露にした。


