「―――ふざけないで!!」
パキッ…という甲高い音と共に、震える夫人のヒステリックな叫びが浴びせられた。
怒り故にか、わなわなと肩を小刻みに震わせる物凄い形相の夫人と、足元に転がる折れた扇子が目に入った。
腕の中のサリッサが、ビクリと震えた。
「……貴方達………な、なな何を非常識な事を…!!………王族の…それも王子と……商人の小娘だなんて………!………いけません!!断じて許しません!!許されると思っているのですか!!」
「………ならば、誰に許されればよろしいのですか?」
「………っ……だ、誰って……」
笑顔で返してきたシオンに、夫人は再び声を詰まらせる。
「………誰に許可を得なければならないのかは知りませんが、私は許されないならばさっさと破るつもりですよ…マノン夫人…。………両親亡き後、敵方と世間に存在自体を晒さしてはならなかった幼い私を、今まで育ててくれた恩は……一生忘れませんよ。酷い監禁人生でしたからね、忘れようにも忘れられないですが。………しかし、私ももう20を過ぎました。………貴方方の助けが無くとも、一人で隠れんぼくらいは出来ます。……これを機に、出て行こうかな―、と…」
………王政崩壊後、数十年経った今でも、隣国バリアンはこの荒れ果てた国に目を光らせている。
…行方不明の王族を探し当てようと、獲物を狙う野犬の如く、しつこく鼻を利かせている。
そんな敵から、戦火から逃げ延びた前デイファレト王51世やシオンが身を隠せたのは、貴族達の助力があったからだった。


