「……あ、貴方達…離れなさい!!……サリッサ!!…なんてふしだらな…」
「マノン夫人………少し黙ってくれないかな…。…………………………そうだ、サリッサ。………自己紹介がまだだったね」
夫人に笑顔で振り返った彼だったが、その綺麗な瞳は何処か鋭さを秘めており、夫人は声を詰まらせた。
静かにサリッサに向き直った彼は、恐縮しきっている彼女を見下ろしながら柔らかな笑みを浮かべた。
「………申し遅れました。………………前デイファレト王51世の子………第一王子である……………シオン=エス。……珍しいですが、誠名もシオン=エスです。覚えやすいでしょう?」
ご丁寧に名を名乗る、目の前の律義な王子様の笑みは、とても綺麗で、優しくて、親しくて………。
………初めて、会った時と………全然変わらなくて…。
「………………存じ…て………おり…ま………す」
何故だか、そんな事が無性に嬉しくて。
嬉しくて。
こんな、卑しい自分に笑顔を浮かべてくれる、変わらぬ彼が…。
何故、貴方は…。
「………サリッサ…どうして泣いているんだい?」
恐る恐る顔を上げ、視線を重ねて、掠れ声で応えてくれた彼女は………とても切ない表情で、瞬きを繰り返す両目からは、透明な綺麗な涙が溢れていた。
涙とは、こんな綺麗なものなのか。
こんなにも、儚げなのか。
そう感じるのは………彼女だからか。


