………階段を降りる、彼の足音が響き渡る。
ゆっくりとしたそれは単調なリズムを刻みながら、徐々に大きく、そして近付いて来る。
夫人の叫びが木霊するが、彼は一切応えず、無言だった。
その間、彼の足音はより近く、より大きくなり…。
………サリッサの目の前で、鳴り止んだ。
「………サリッサ。………顔を上げて」
…震える指先を隠し、サリッサは床を見詰めたまま、小さく首を左右に振った。
………顔を上げるなんて……そんな事…。
「………顔を上げなさい、サリッサ」
再度言われても尚、サリッサは首を振って拒否する。
………小刻みに震える彼女の細い肩を見下ろしながら、溜め息を吐いた。
その場で静かにしゃがみ込み、土下座する彼女を覗き込む様に顔を近付けて、囁いた。
「………上げてくれないなら、私も土下座するよ?」
………そう言った途端、サリッサは弾かれた様にガバッと顔を上げた。
…王族様に土下座など、させてはならない…!
慌てて顔を上げたサリッサの目の前には………優しく微笑む、彼の嬉しそうな顔があった。
「………やっと顔を見せてくれたね。…君は少々強情なんだな」
「………っ…!」
そう言いながら、彼はサリッサの手を取り、ゆっくりと立ち上がらせた。
…冷たくなったサリッサの手を見下ろし、微笑を浮かべ、彼はその手を暖かな手で包み込んだ。
「………こんなに冷えて…。土下座なんかするからだよ…」


