亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


「………」

サリッサは無言で俯いたまま、夫人の背後にある扉へと歩み寄る。
本の少しだけ視線を上げて夫人の様子を窺ってみるが……夫人は素知らぬ顔でパタパタと扇子で扇いでいるだけで……こちらを見ようともしない。




………これ以上、サリッサとの関わりは持ちたくないのだろう。
早く出ていけという、無言の威圧感がヒシヒシと伝わって来る。



………存在自体が不愉快でしかない自分が夫人に声を掛けるのは、彼女の機嫌を更に悪くさせるだけなのだが……ここは礼儀。きちんと挨拶をしなければならないだろう。

…出来れば主人にも挨拶をしたかったのだが、夫人に散々言い含められたらしい彼は顔も見たくない様で、当然の様にこの場にはいなかった。






「………あの…奥様…」

サリッサは夫人の正面で立ち止まり、おずおずと口を開いた。

………案の定…夫人は、何も答えない。


「………………お嬢様の…花嫁衣装の仕立て…ですが…………私なんぞに依頼して下さって………ありがとう…御座います…。………今更ですが、お嬢様のご結婚…お祝い申し上げます。………出来れば……お幸せにと…お伝え下さい…」

「………………送りは用意させています。………言いたい事が言い終わったならば………さっさと出てお行き…」

「………はい…」

…氷の様に冷たい夫人の態度にも、サリッサは微笑を浮かべて頷いた。



言いたい事は言わせてくれるのか。……とても…優しい奥様だな。



「………では…あの………一つ…だけ」


最後に…一つだけ…。



………どうせ、伝えてはもらえないだろうけれど。


















「………あの方にも……お幸せに…と」