「………」
サリッサは無言で俯いたまま、夫人の背後にある扉へと歩み寄る。
本の少しだけ視線を上げて夫人の様子を窺ってみるが……夫人は素知らぬ顔でパタパタと扇子で扇いでいるだけで……こちらを見ようともしない。
………これ以上、サリッサとの関わりは持ちたくないのだろう。
早く出ていけという、無言の威圧感がヒシヒシと伝わって来る。
………存在自体が不愉快でしかない自分が夫人に声を掛けるのは、彼女の機嫌を更に悪くさせるだけなのだが……ここは礼儀。きちんと挨拶をしなければならないだろう。
…出来れば主人にも挨拶をしたかったのだが、夫人に散々言い含められたらしい彼は顔も見たくない様で、当然の様にこの場にはいなかった。
「………あの…奥様…」
サリッサは夫人の正面で立ち止まり、おずおずと口を開いた。
………案の定…夫人は、何も答えない。
「………………お嬢様の…花嫁衣装の仕立て…ですが…………私なんぞに依頼して下さって………ありがとう…御座います…。………今更ですが、お嬢様のご結婚…お祝い申し上げます。………出来れば……お幸せにと…お伝え下さい…」
「………………送りは用意させています。………言いたい事が言い終わったならば………さっさと出てお行き…」
「………はい…」
…氷の様に冷たい夫人の態度にも、サリッサは微笑を浮かべて頷いた。
言いたい事は言わせてくれるのか。……とても…優しい奥様だな。
「………では…あの………一つ…だけ」
最後に…一つだけ…。
………どうせ、伝えてはもらえないだろうけれど。
「………あの方にも……お幸せに…と」


