「………本当に………お世話になりました」
すっかり慣れ親しんだ、一ヶ月間だけの仕事部屋から荷物をまとめ、ガランとした何も無い部屋に向かって、サリッサは頭を下げた。
まとめたと言っても、大した量は入っていないから、やっぱり大した重さではない。
荷袋の紐を肩にかけ、サリッサは部屋の扉を締めた。
何処か物寂しい開閉音が、廊下に響き渡った。
夫人から指定された時刻に、この館を出る手筈だ。
見送ってくれると言ってくれたエリザベスも、この時間は婚約者の貴族の元に出かけており、不在だった。
………トボトボと一人、館から出る事を余儀なくされたサリッサは、いつもの歩調で階下に降りていく。
…報酬のお金は頂いた。
しばらくは働かなくとも、充分食べていける程の大金だ。
母も喜んでくれるだろう。
………あとは…。
………あとは……この階下まで伸びる階段を降りて………広い玄関に出て……古びた大きな扉を、抜けるだけ。
………見飽きた雪景色が見えたところで、全て終わり。
私の仕事は、それで終わり。
豪勢な貴族の館とも、これでおさらば。
………明日からまた、母と二人きりの生活が再開する。
この一ヶ月、昼間は仕事で夜しか会話が出来なかったから………たくさん話をしよう。
たくさん…。
何人かの召使と擦れ違いながら、広々とした玄関に行くと………その先には、一人無言で佇む夫人の姿があった。
黒を基調としたドレスを纏っていて、とても綺麗だった。


