亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~

「……そうですか、そうですか!さぞや大変な、暑苦しい長旅でしたでしょうね。…賊ですか?おお怖い…ご忠告痛み入りますよ」

老王を隠す様に前に立ち、男は首を傾げながら言った。

………腹黒い、と言うか、見た目から既に怪しい男だ。整った顔立ちが実に勿体ない。


「…ああ、申し遅れました。私、王の側近兼大臣で御座います。第1貴族のケインツェル=ワイナーです。ファーストネームの方でお呼び下さい…」


フフッ、と口元を歪める。
……はっきり言ってあまり直視したくないな…とぼんやりと思い、アレクセイは極自然に重なる視線から逃れ、彼の肩や胸辺りに視点を置いた。


「………では、本題に移らせて頂きましょうか…」



一度咳払いし、アレクセイは側近の背中に隠れた状態の老王に、再度向き直った。

…ビクリと大袈裟に震える老王。ケインツェルは笑みを浮かべたまま、ゆっくりと玉座の後ろに回った。













「―――君達、中々腕の立つ使者なんだね」











………何事も無かったかの様に真面目な話に移ろうとした途端、再び第三者の声が前を阻んだ。



………声の主は、先程もこの様に割って入ってきたあの美青年だった。
涼しげな笑みは相変わらずだが、漂う空気はどうも………穏やかでは、ない……気がする。


「―――…その猛獣の群とやらを倒したから…今君達はここにいるんだろう?………この国で獰猛と言えば、バジリスクかな?……でもあれを短時間で倒すだなんて……………………君達は貴族や大臣階級というよりも………兵士の類なのかな?」

「………」


この青年、始終笑顔でやんわりとした口調だが………何かを探っている様にも思える。