「……サリッサ…大丈夫?……もう…お母様ったら………怒りの矛先が違うじゃないの………。………ごめんなさいね…サリッサは何も悪くは無いから…」
商人風情の自分を親しげに名前で呼んでくれるエリザベス。
少しでも気が休まる様にと背中を擦ってくれる彼女の手は、とても優しくて、安心出来た。
「………悪いのはあの殿方の方…。………言い付けをすぐ破ってほっつき歩くのだから…。………いつまでも子供みたいで……呆れるわ…」
そう言って、エリザベスは頭を抱えて溜め息を吐いた。
………どうやら、この事態の渦中にある人物はやはりあの……青い髪の男であるらしい。………しかも彼の存在はこんな大騒ぎになるほど大層なものの様だ。
…彼の事…また更に、謎が増えてしまった。もう訳が分からない…。
「………あの人、どんなに言い聞かせても駄目だから……またサリッサの所に遊びに来るでしょうね。………外に出たいって気持ちは分かるけど………まあ、いいわ。………サリッサ、次に来た時彼に言っておいて。………説教が嫌なら、もっと上手く抜け出しなさいってね」
「………」
エリザベスはどうやら、黙認するつもりらしい。
……良いのだろうか。
お稽古がある、とエリザベスは部屋から出て行こうとした。
彼女の背中が口を閉ざす扉の向こうに消えようとする直前、サリッサは慌てて口を開いた。
「………あの!…………あの…人は………そんなに………何か……」
……エリザベスは振り返り様に、ポツリと呟いた。
「……………………………彼はね、この館から一歩も出た事が無いの。…きっとこれからもね。…彼は、外に出しちゃ駄目なの」


