「………芸術…だなんて。………糸や生地、飾りなど……立派な素材があるから……私達は仕立てが出来るだけで…。………使わせてもらって…いる………着て頂いている……だけだから……」
「えらく謙虚なのだね…君は。……私の見解とは、だいぶ違う様だ」
男はそう言って、椅子から腰を上げた。
そして彼はそのまま……何故かサリッサの正面に歩み寄ってきた。
…思わず縫い針の手を止めてしまったサリッサはビクリと身を震わせ、背の高い人間から見下ろされる妙な威圧感にドキドキしながら耐えた。
彼は傍らのマネキンにペタペタと触れながら、口を開いた。
「………近々、このマネキンにはそれはもう美しいドレスが着せられて…そしてそれは花嫁に贈られる。………きっと素晴らしいだろうね。……名画や名器と同じ輝きを持つ、素晴らしい芸術が………ここに生まれる。………………だがね、私は………私が本当に美しいと、芸術だと思うのは……」
「………」
ビクビクしているサリッサの手に、彼はそっと触れた。
針仕事を担うサリッサの指は、小さな擦り傷と切傷だらけで、女性の手にしてはお世辞にも綺麗とは言えない。
乾燥してカサカサしているし、爪だって磨いている訳じゃないから、鈍い光沢しか持ち合わせていない。
………汚い手だ。
………嫌いな手。
自分でもあまり見ない様にしていたこの手を、彼はまじまじと眺めて………微笑んだ。
「………本当の芸術は………そう…………………作り手なのだよ。芸術を作る、芸術家こそが、美しさの根源だ。………ね?…サリッサ」


