…この奇妙な男については、分からない事だらけだった。
誰ですか?、と尋ねても、彼はニッコリと微笑むだけか、もしくは彼の突発的な世間話で流されてしまう。
結局、彼個人の情報はゼロに等しく、そして仕事中のサリッサの視界に必ずいるのが常となった。
次の日も、また次の日も……最初はいないのだが、いつの間にか室内にいる。
奥様やお嬢様がこの部屋に訪れる時は、彼は使われていないクローゼットの中にひっそりと隠れたり、「退散~」と茶目っ気溢れる子供の様に部屋から出て行く。
………当のサリッサは、もう考えても埒が明かないし、何を言っても聞かないどころかまず話が噛み合わないから…仕方無い、と放っておくしか術は無かった。
日に一回は必ず見に来るお嬢様に、この部屋にやってくる奇妙な彼の存在の事を打ち明けようとすればいつでも出来たが……。
「私の事は黙っていてくれないかな?バレると何かと面倒なのでね」
……と、毎日彼に言われていたため、どうしても言い出せなかった。
………そんな不思議な環境の中での仕事が、約一週間経った頃だろうか。
ほとんど一方的に話し掛けてくる青い髪の男は、いつもの様に椅子に腰掛け、黙々と仕事をするサリッサに声を掛けてきた。
「何故仕立ての仕事をしているんだい?」
「………何故って…………私の家系は、昔から仕立て屋を営む商人ですから………」
「ならば、仕立ての技術は代々受け継がれて行くのか。………素晴らしい事だね。………仕立て屋か………………まさに、芸術だ」
何故だかやけに感心され、サリッサは気恥ずかしさから首を横に振った。


