迎えに導かれ、岩山の如き巨大で高い館に入り、右手右足、左手左足を同時に出しながら進み、満面の笑みで迎えてくれた館のご主人と奥様に挨拶をし………………ようやく我に返ったのは、仕事部屋として与えられた個室に入って…約一分後だった。
………あまりにも緊張し過ぎて、この部屋に入るまでの今日の記憶が曖昧だなんて……情けない。
まだ夢心地の頭を起こして、ぼーっと辺りを眺めた。
……与えられた個室は、個室といえども、サリッサには広過ぎる程だった。
上半身だけのマネキンが隅に佇み、大きな作業台代わりのテーブルが部屋中央にドンと置いてあった。
多種多様な裁縫道具も揃えてあり、仕事道具は実に充実している。
………ここで一ヶ月。
一ヶ月………働くのだ。
………冷たい雪や風が吹き込んでくる事もないし、ランプの明かりが消えない様に気を遣う事もない。
なんて……なんて贅沢なんだろう!
仕立ての事しか考えなくていい、やりたい様に、好きなだけ考えていい。
(……………至福だわ…)
ほうっ…とうっとりしながら、サリッサはせっせと仕事道具を広げ始めた。
……二日目。
花嫁衣装に身を包む、花嫁のご令嬢に会い、採寸をさせてもらった。
華奢な身体付きにすらりと伸びた手足。スタイルも良いし、顔も整っているし、何より優しい……それはそれはもう、素敵なお嬢様だった。
身分の差には敏感で、差別の激しい貴族様だが、商人風情の自分と口を利いてくれる。
採寸している最中でも、このお嬢様は気軽に声を掛けてくれた。


