亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~














…………。












………微笑のアレクセイの言葉の後、奇妙な………沈黙が流れた。

老王の乾いた唇もそのわななきは変わらないが、いつの間にか固く閉じられている。











「………まあ、案内役の方は危険を察して避難したのでしょうが。………何しろ突然の事で………十匹程同時に襲いかかってきましたからね……いやぁ、撃退するのに少々てこずりましたな。………五分程、遅れを取りました」



「………」






………しん、と静まり返る謁見の間。

大勢の人間が囲んでいるとは思えない程、音一つ無い。………皆無だ。




………キョロキョロと辺りに目を泳がせる老王。眼球だけが忙しなく動く。

……玉座に隠れた背中に、気持ちの悪い冷や汗が流れた。







「………我が国の領土にも人を襲う獰猛な獣はいますが……あれ程巨大で恐ろしい風貌の獣は初めてでした。………群に襲われるなど、なんと運の無い…」

「―――何が言いたいんだい?」





今度はまた別の声が、アレクセイの発言を遮った。

…その声は、頭上の玉座からではない。
若々しい澄んだ声の出所は、そのすぐ傍らからだった。

…本の少しだけ視線をずらした先に……………見るからに身分の高そうな一人の青年が、頬杖を突いてこちらを見ていた。


この老いぼれの王と同じ赤褐色の肌に、燃える炎の様な鮮やかな赤い髪。
………しかし顔の方は、老王とは似ても似つかぬ目を見張る様な美青年だ。




その若者が、涼しげな笑みを添えて首を傾げた。
………目は、笑っていない。