何処の貴族であるか訊けば、そこは名門中の名門貴族。
第1貴族、第2貴族の部類に入る、由緒正しき名家だった。
そんな雲の上の存在に等しい貴族様がこんな街に暮らしている事にも驚いたが、何より驚くべき点はやはり、その貴族様からサリッサに直々の依頼が来た事だろう。
半ば、いや…ほとんど呆然としながら使者である老人の言葉を聞くサリッサ。
だが、内容があまり頭に入ってこない。
………一度、自分で頬を軽く叩いた。
仕立ての依頼は、そこの貴族の愛娘であるお嬢様の婚儀までにドレスを作る事、であった。
…聞けば、婚儀までは約一ヶ月も無い。
豪勢なドレスはあまり作った事が無かったサリッサは、依頼が来て嬉しい反面、不安に駆られた。
「………………間に合うかどうか…それに、ご希望に添えるものを作れるかどうか……貧乏商人ごときの私のデザインなんて……とてもじゃありませんが、貴族様にはそぐわない…かと……」
「我が主の旦那様と奥様は、貴女が作られた衣服をご覧になり、大層気に入られたのです。どうか、ご承諾願えないでしょうか?」
そう言って、使者は懐から何やら袋を取り出し、手渡してきた。
反射的に受け取ったサリッサは、それが何なのか、すぐに理解した。
「それは前金、とのことです。依頼を承諾して頂ければ、終わりにはその倍の報酬を支払うと申しておりました」
袋の口からは、喉から手が出る程欲しくて仕方無かったお金が覗いていた。
……いくらあるのか……もはや分からない。
………数える気にもなれない。
…ああ…………これで薬が買える。
まだ、ここにいられる…。


