「………信じられないかもしれませんが………貴方方と会うまでは、あの子………笑いもしなければ…口も利いてくれなかったのですよ…?」
「………あの王子が…ですか?」
………レトに雪の塊をぶつけ、リアクションの無い彼を見て腹を抱えて笑う明るいユノを見ながら、ザイは少し驚いて言った。
………一言も口を利かないユノなど…どう想像しても浮かばないし、考えられない。有り得ない。
あの、ユノが…大人しい…?
「………一言も…ですか?」
「ええ。……はい、とか、いいえ、とか……簡単な受け答えはするのですが……それ以外の会話らしい会話は………全く…。………私は……………あの子の母親ではあるけれど………………………………あの子にとって…母親ではないのです…」
………そう言って彼女は俯き…何処か、自嘲的な笑みを浮かべた。
母親であって……母親でない。
母親として、見られていない。
母親でありながら。
………この、矛盾の理由。
表には出て来ない、影の真実。
そこに何が隠されているのかは、分からない。
「………一体何を…。………母親は貴女だけではありませんか。……王子にとって貴女が母親ではないと言うのなら、貴女は何なのです…?」
…意味が分からない。
………この親子は、何故そんなにも………………距離を置こうと、するのだろう。
………重荷、影、消えない過去。……そんなものを、自分も抱えてはいるが………この親子も、ある意味同等のものを背負っている気がした。
サリッサは柔らかな微笑を浮かべた。
「…強いて言うならば、『汚点』という名の………最低な、母親ですわ」


