問答無用でリストを引き寄せるや否や、イブは“闇溶け”の応用である“闇入り”をした。
自分以外の生命体、つまり他人を闇の中に引き摺り込む技だが………やられる方は結構、きついらしい。
アレクセイが昔そんな事を言っていた。
……だが、“闇溶け”など屁の河童のイブには、そんな事知った事ではない。体調不良になろうがどうなろうが、とにかく消えれば万事解決だ。
「なんか身体が物凄く冷えるらしいけど我慢ね―、リストさん」
「冷え…?お前………おわぁっ!?」
―――……次の瞬間、黒煙の様な闇は二人の身体を包み込み、暗い谷からは、二人の影も形も無くなった。
闇が漂う谷底に、再び沈黙が流れ始めた。
弓を地面に立て、刺さった矢を抜くと、氷の矢は手の平の中でパキッと甲高い音色を奏でて細かく粉砕した。
指に纏わりつく氷の欠片を払い除け、グッと弓の握り部分を掴むと、二メートル以上ある弓は青白い光りを放ち、両端からゆっくりと収縮していった。
そして再度、神声塔の辺りに目を凝らしたが………標的はもう何処にもいなかった。
よく見えなかったが……標的は男女二人。
こちらが放った矢をことごとく避けた挙げ句、女の方は矢を投げ付けてきた。
一瞬、怯んでいた隙に二人は逃走し、奥の谷へと身を投げた。
………あの谷は相当深い。
飛び下りるなど自殺行為でしかないのだが………。
「………ダンテ……あの二人、生きていると思うかい?」
ダンテと呼ばれた少年の隣りで、三十代前後の見た目の女が笑って言った。


