真っ白な雪ばかりの景色から、薄暗い岩肌塗れの険しい谷へと視界が変わる。
一瞬の静止した様な気持ちの悪い浮遊感の後、一気に速度を上げて二人の身体は谷底へと落下していった。
落ちる落ちる落ちる!!
………いや、落ちてる落ちてる落ちてる!!
脳内パニックと化したリストを傍目に、空気抵抗と風を受けながら長いポニーテールをなびかせるイブは、絶叫マシーンに乗り込んだ無邪気な子供の様に笑顔だった。
「よっしゃ―!!何処の狩人か知らないけど、後でぶっ潰すぞ―!!」
アハハハ―!!、と谷底に向かって笑い続けるイブの身体は、徐々に黒煙を纏い、消え始めた。
………それを見たリストはパニックになりながらも必死で彼女に叫ぶ。
「ちょい、待て!!待て!!“闇溶け”か!!俺は“闇溶け”をまだ修得してねぇんだよ!!こら勝手に消えるんじゃねぇ!!」
…現在、国家騎士団の全兵士には、二年前の戦争の教訓を活かし、剣術以外の新たな戦術として“闇溶け”の修得が義務付けられている。
半分以上の兵士が“闇溶け”を修得したが……やはり出来ない者もいる。
リストはその一人だ。
このままじゃ俺だけ死ぬだろ!!と喚くリストを、イブは面倒臭そうに見やった。
「………あ―……そっか、忘れてた―。………“闇溶け”くらい楽勝じゃん。早く覚えてよリストさ―ん。手間が掛かるんだから―」
「このっ……あのな!人には得手不得手ってものが…」
「はいはーい…」
言い訳など聞きたくないとでも言うかの様に会話をぶった切り、イブは空中でリストの腕を掴んだ。


