「………カイ、相変わらず………私以外の人間がいる時は話さないんだな……」
苦笑混じりに小声で言うと、カイは口で答える代わりにコクリと頷いた。
………魔の者は主人としか話さない、本当に寡黙な…ちょっと何を考えているのか分からない妙な生き物だ。
だから他の魔の者がどんな声で、どんな性格をしているのかなど全くもって不明なのだ。
………このカイも、他人からすれば愛想の良い大人しい魔の者に見えるかもしれないが…………主人であるアイラと二人きりの時は、驚く程お喋りだし、加えて他人の悪口ばかりぼやいている奴だ。
………まあ、そのギャップが面白いのだが。
アイラとカイが今いる場所は、大勢の人間がひしめく謁見の間。
グルリと部屋を囲む様に整列する武装集団に、バリアンに仕えている身分の低い魔の者。…玉座に腰掛けたまま何だか小刻みに震えている老王。
玉座を挟んで反対側にいる弟のリイザと、その腹心である魔の者のログ。
………カイが一言も声を発さないのも当たり前か。
(………父上の腹心は………相変わらず…か…)
アイラはふと、高い玉座に視線を移した。
側近のケインツェルを側に従えた老王の周囲には………そこにいる筈の魔の者が、いない。
王族なら…ましてや頂点の王ならば、確実に魔の者が付き従っている筈なのだが…。
………バリアン王には腹心がいないのだ。
………遠い昔に、彼の腹心は戦火の中で、殺されたのだ。
…以来、老王には魔の者がいない。その代わりも、いない。


