亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~


その後ろにいた使者の一人が、この状況に特に慌てる訳でも無く、無遠慮にボソボソと老人に耳打ちする。


「…アレクセイ様、そうやっておちょくるのはよして下さい。………私等の国とは違って、ここは冗談が通じないんですから…」

「………冗談のつもりで言ったのではないのですが………ありのままに、正直に答えただけです」

「………どうするつもりですか。このままだと私等全員、針山地獄ですが…」



アレクセイという老人とその部下らしき使者の一人は小声で話しているが、この静寂漂う空気の中では全部丸聞こえだった。



………なんて、緊張感の無い奴等だ。




取り囲む兵士の誰もが半ば呆れていた。




「…ぶ………無礼者!!…武器の所持に加えて…その、態度………………我が王への謁見は許せん!……このまま、牢屋に放り込んでやる!!」

「……手緩い!!殺してしまえ!一人ずつ、砂漠の真ん中で八つ裂きにするんだ!」

「バジリスクの餌にでもしてしまえ!」




…四方八方から、洒落にならない罵声が飛び交う。
アレクセイは笑顔のまま数回瞬きをし、大きな、盛大な溜め息を吐いた。

「………本に…話になりませんな。………………血の気の多い集団で。…同じ兵士でありながら…………品性を疑います」

「………何!!」

「あ、これは失敬。つい本音が…」

悪気など全くありませんよ、と澄まし顔の老紳士に、周りの怒りのボルテージは上がる一方で…………今串刺しにされても文句は言えないし、不思議でも無かった。



…背後の使者が、アレクセイに呆れ顔を向けた。…その隣りで始終無言だったもう一人の使者が、フードの下で溜め息混じりに、アレクセイに囁いた。