亡國の孤城Ⅱ ~デイファレト・無人の玉座~





…ここで止まれと言えばピタリと彼等は足を止め、両手を上げろと言えば彼等は揃って両手を上げ…。


「………念のため…所持している物を見せてもらう。………マントの前を大きく広げろ」

取り囲む兵士の一人が、無感情な声で指示する。

深緑のマントを羽織った彼等は、ただ無言で言われた通りにマントを広げた。

………その様子を、何重にも取り囲む兵士の群れの背後から、ウルガは壁に寄り掛かって傍観していた。



マントの下からは、見慣れない質の生地の衣服と、この砂漠の国ではあまりお目にかかれない色素の薄い肌が現れた。

自分達の赤褐色の肌と比べ白い肌というものは、血管も透けて見えるし、傷など付ければ目立つし………なんだか不健康に見える。


………異質に思える他国の人間を目の当たりにしながら、半ば観察する様に兵士達はジロジロと見詰めた。



行列の先頭に立っている紳士的な老人の所持物を確かめていた兵士が………ふと、眉をひそめた。

「………武器は………その腰の短剣一本………だけか…?」



………訝しげに尋ねる兵士の視線の先には…なるほど、確かに……使者として異国に入るにしては頼り無いたった一本のみの短剣。


………まさか。他に何か持っているに違いない。

………しかし、マントの内側をどれだけ見ても、それらしい物は無かった。


一人だけフードを外したしわだらけの老紳士は、人の良い笑みを浮かべた。

「………ええ。まあ…………………持っているのは、これだけですな」

…『持って』をやけに強調した言い方。
警戒心に加え、ヘラッとしたこの老人の態度に、兵士は怒りを覚えた。