何か言いたげに開閉を繰り返す口を結び、ハイネはしぶしぶ城門に近寄った。
遥かに年下だがおっかない少女の長と、慣れないバリアン兵の視線が、背中にぐさぐさと突き刺さる。
細部にまで美しい装飾が行き届いた城門は、薄い氷が張っていた。………理由も無くわざわざ氷の塊に触れたくはないが……絶対命令の前では、嫌な事でも前進するのみ。退路は無し。
………これだけ大きな、ごちゃごちゃした城門だ。さぞや複雑な錠前が幾つも付いているに違いないが……視界を覆う真っ白な吹雪きに遮られ、その有無の判別の仕様が無い。
………もうここは、城門を飛び越えた方が早いのではないか?……とか思いながら、くたびれた皮手袋に包まれた手を城門に伸ばし、極自然に押した。
―――ガチャン、と錠前によって開門が阻まれる音とちょっとした振動が伝わってくる…………かと思っていたハイネの予想は、そのまますんなりと口を開けた門が軋む甲高い音に…呆気なく、かき消された。
………手を離しても、城門は右と左へそのままゆっくりと口を全開していく。
ギギギギィィ………と、吹雪きに混じって奏でられる錆び付いた音色は、完全に開き切ると同時にピタリと止んだ。
「………」
………開いた。
しかも、あっさりと。
自分の手で開け放ってしまった城門をしばらくぼんやりと見詰めていると、そのハイネの脇を堂々と小柄なドールが通り越して行った。
バリアン兵らも無言で続いて行く。
「ハイネ、置いて行くわよ」
先を行くドールの声に、我に返った。


